「バイエルとハノンは併用したほうがいいの?」「同時に始めると子どもの負担にならない?」と迷う方は少なくありません。どちらも昔から知られるピアノ教材ですが、身につける力は同じではありません。
結論からいうと、バイエルで基礎を学びながら、必要な時期にハノンを短時間取り入れる方法は相性のよい組み合わせです。ただし、ピアノを始めた日から必ず2冊を並行する必要はありません。ここでは、併用を始める目安、練習する順番、時間配分、子どもが嫌がる場合の考え方まで整理します。
バイエルとハノンの併用は「バイエル後半頃」からがひとつの目安

バイエルとハノンは目的が異なるため、同じ時期に使っても内容が重複しにくい教材です。バイエルで楽譜を読みながら曲として弾く力を身につけ、ハノンで指の動きを集中的に整える、という役割分担ができます。
併用する時期に迷ったら、簡単な両手奏に慣れ始めるバイエル後半頃をひとつの目安にすると考えやすいです。全音楽譜出版社の「全訳ハノンピアノ教本」も、バイエル後半頃から併用し、上級まで使う教本として案内しています。
最初から2冊を同時に始めなくても大丈夫
ピアノを始めたばかりの時期は、鍵盤の位置、指番号、音符の読み方、左右の手の使い方など、覚えることが多くあります。その段階でハノンまで加えると、「練習するページが増えた」という負担だけを感じる子もいます。
そのため、導入期はまずバイエルなどの主教材に慣れ、片手奏から簡単な両手奏へ進んだところでハノンを加える方法でも遅くありません。教室によってはもっと早く子ども向けのハノンを入れたり、別のテクニック教材を使ったりするため、開始時期に絶対的な決まりがあるわけではありません。
バイエル後半に入ったらハノンを検討しやすい
バイエルがある程度進むと、両手で別々の動きをしたり、指くぐりを使ったり、音域が広がったりして、単に音を読めるだけでは弾きにくい場面が増えてきます。この頃になると、特定の指だけ動きにくい、左右で音の粒がそろわないといった課題も見えやすくなります。
そこでハノンを短時間取り入れると、曲の途中で毎回つまずく動きを、単純な音型にして集中して練習できます。バイエルの進度を上げるためにハノンを大量にこなすのではなく、曲を弾くための準備運動として必要な課題を補うイメージが向いています。
子どもの年齢より「今できること」で判断する
「何歳からハノンを始めればよいか」と考えがちですが、年齢だけでは判断しにくい教材です。同じ小学1年生でも、ピアノを始めたばかりの子と、幼児期から続けて両手奏に慣れている子では適した内容が違います。
目安にしたいのは、簡単な両手奏ができるか、楽譜を追う余裕があるか、数分間の反復練習に取り組めるかといった点です。幼い子には「こどものハノン」など、課題を絞った教材を選ぶ方法もあります。全音楽譜出版社には1日5分の練習を想定した子ども向け版もあり、原典に近いハノンを最初から全部こなす必要はありません。
バイエルとハノンは何が違う?併用する意味を整理

2冊を併用するか判断するには、それぞれが何を練習する教材なのかを分けて考えるとわかりやすくなります。バイエルとハノンは、どちらか一方が上位教材という関係ではありません。
| 教材 | 主な目的 | 練習内容の特徴 | 併用時の役割 |
|---|---|---|---|
| バイエル | ピアノの基礎を総合的に学ぶ | 読譜、リズム、指使い、両手奏などを段階的に学ぶ | 「曲として弾く力」を育てる中心教材 |
| ハノン | 指の動きや基本テクニックを整える | 同じ音型を繰り返し、指の独立や均等な動きを練習する | 苦手な動きを集中的に補う補助教材 |
バイエルは読譜や両手奏を含む総合的な教則本
バイエルは、初心者が段階的にピアノの基礎を学ぶための教則本です。全音楽譜出版社も「ピアノ演奏の基礎および技術を無理なく系統的に習得でき、音楽の基礎知識も理解できる」と説明しています。
単に指を動かすだけではなく、楽譜を読み、拍子や音価を理解し、右手と左手を合わせ、一つの課題を曲として仕上げていきます。つまり、バイエルを進める中では「楽譜を見て音楽にする」ための複数の力を同時に使います。
ハノンは指の動きに集中しやすい練習教材
ハノンでは似た音型を反復するため、読譜や曲想に頭を使いすぎず、指の動きそのものに意識を向けやすい特徴があります。特に、左右の粒をそろえる、4・5の指を動かしやすくする、力みを減らすといった課題を確認しやすくなります。
ただし、強く速く弾けば効果が高まるわけではありません。無理に指を持ち上げたり、手首や腕を固めたりすると、かえって弾きにくい動きが身につくことがあります。音楽之友社の「ハノン・ピアノ教本 New Edition」でも、アクセント、リズム、移調など多様な練習方法を示し、単なる指のトレーニングではなく音楽的に学ぶことを提案しています。
役割が違うからこそ併用しやすい
バイエルだけでも初級の学習は進められますが、曲の中で苦手な指の動きが出てくると、その数小節だけ何度も止まりやすくなります。ハノンを加えると、曲とは別の場所で基本動作を整理できるため、課題を切り分けやすくなります。
反対に、ハノンだけを練習しても、さまざまな音符を読む力や、曲の流れ、強弱、フレーズを作る経験は十分に得られません。「バイエルかハノンか」ではなく、「バイエルを中心に、必要な技術をハノンで補う」と考えると役割がはっきりします。
バイエルとハノンを併用するときの練習順と時間配分

2冊を並行するときに大切なのは、ハノンで練習時間を使い切らないことです。初心者や子どもなら、ハノンは短く、バイエルや好きな曲に十分な時間を残すほうが続けやすくなります。
基本は「ハノン→バイエル」の順で取り組みやすい
練習の最初にハノンを数分弾き、その後バイエルへ進む方法はシンプルです。ハノンで鍵盤に触れ、左右の手の感覚を整えてから曲に入れるため、ウォーミングアップとして使いやすくなります。
ただし、これは絶対の順番ではありません。子どもがハノンを嫌がって練習そのものを始められない場合は、先に好きな曲やバイエルを弾き、途中でハノンを1課題だけ入れても構いません。毎日の練習が止まるほど順番にこだわるより、無理なく続けられる形にするほうが現実的です。
15〜30分練習する場合の時間配分例
家庭練習が15分程度なら、ハノンは3分ほどでも十分です。30分取れる場合でも、初級段階でハノンを15分、20分と続ける必要は通常ありません。先生から具体的な指示がある場合を除き、短く集中して弾くほうが目的を持ちやすくなります。
| 1日の練習時間 | ハノン | バイエル | 好きな曲・復習など |
|---|---|---|---|
| 15分 | 2〜3分 | 8〜10分 | 2〜5分 |
| 30分 | 5分前後 | 15〜20分 | 5〜10分 |
| 45分 | 5〜10分 | 20〜25分 | 10〜20分 |
この配分はあくまで一例です。発表会前なら曲に多く時間を使い、指の課題を集中的に直す週はハノンを少し増やすなど、目的に合わせて変えて構いません。
ハノンは回数より「何を直すか」を決める
毎日同じ番号を何となく3回弾くより、「今日は左右の音量をそろえる」「力まずにゆっくり弾く」「指定されたリズム変奏で弾く」など、ひとつ目的を決めたほうが練習の意味が明確になります。
速さについても、最初から目標テンポを追う必要はありません。音が抜ける、指がつぶれる、肩や手首に力が入る状態ならテンポを下げます。正確さと無理のない動きを保てる速さから始め、少しずつ上げるほうが安全です。
併用で起こりやすい失敗と、家庭で気をつけたいこと

バイエルとハノンの組み合わせ自体に問題がなくても、やり方によっては練習量だけが増えてしまいます。特に子どもの習い事では、教材を増やしたことより「何をどこまでやれば終わりか」が見えないことが負担になりがちです。
「毎日全部やる」にしない
ハノンは60番まであるため、冊子の厚さを見ると最初から順にすべて進めなければならないように感じるかもしれません。しかし、学習段階によって必要な課題は違います。バイエルと併用する初級段階なら、前半の基本的な課題から必要なものを選ぶことが一般的です。
家庭では「今日はハノン1番を2回、バイエルの宿題を3か所」のように終わりを具体的にすると取り組みやすくなります。練習量を増やすより、先生が意図しているポイントを確認するほうが効果的です。
速さを競わせすぎない
ハノンは同じ形が続くため、テンポを上げることが目標になりやすい教材です。けれども、速く弾けても音がばらついたり、腕が固まったりしていれば、練習したい動きから外れてしまいます。
メトロノームを使う場合も、「昨日より速く」だけで評価せず、一定の拍で弾けているか、左右がそろっているか、余分な力が入っていないかを確認します。痛みや強い疲れが出る場合は続けず、先生に弾き方を見てもらうほうが安心です。
ハノンが嫌いになったら練習方法を変える
ハノンは音型の反復が中心なので、曲を弾くことが好きな子には単調に感じられることがあります。その場合、「嫌でも10回」という進め方にすると、ハノンだけでなくピアノ練習全体への抵抗につながることがあります。
回数を減らす、リズムを変える、左右を別々に確認する、1日数分にするなど方法を変える余地があります。先生が認めれば、子ども向けハノンやバーナムなど別のテクニック教材を使う選択肢もあります。目的は教本を終えることではなく、必要な弾き方を身につけることです。
バイエルとハノンを併用しなくても問題ないケース

「昔はバイエルとハノンをやった」と聞くと、両方使わなければ基礎が不足するように感じるかもしれません。しかし、現在は初心者向けの総合教材やテクニック教材が数多くあり、教室ごとに教材の組み合わせは異なります。
先生が別のテクニック教材を使っている
バーナムなど、短い課題で体の動きやテクニックを学ぶ教材を併用している教室では、同じ目的でハノンを追加しないことがあります。教材名が違っても、指の独立、音階、和音、さまざまなタッチなどを別の方法で練習していれば、ハノンが必須とは限りません。
保護者が「ハノンもやらせたほうがよいのでは」と思ったときは、自己判断で宿題を増やす前に、先生へ現在の教材でどんな技術を身につけているのか聞いてみると安心です。
ピアノを始めたばかりで負担が大きい
導入期の子どもにとっては、椅子に座り、指番号を覚え、音符を読み、短い曲を仕上げるだけでも十分な学習です。そこへ反復練習を追加すると、練習時間が長くなりすぎる場合があります。
まずは「毎日少しでもピアノに触れる」「宿題の曲を落ち着いて弾ける」という習慣を作り、余裕が出てからテクニック教材を加える考え方もあります。始めるのが遅いと取り返せない教材ではありません。
好きな曲を弾く時間がなくなっている
バイエルとハノンを両方進めるうちに、宿題だけで練習時間が終わり、本人が弾きたい曲に触れられなくなることがあります。特に趣味として長く続けたい子の場合、基礎練習と「弾きたい」という気持ちのバランスも大切です。
基礎教材の量が多すぎると感じたら、どちらかをやめるかどうかではなく、1日の課題量を調整できないか先生に相談してみましょう。ハノンを週数回にしたり、1回の量を減らしたりするだけで負担が変わることもあります。
子どものバイエルとハノン併用で保護者ができるサポート

家庭では、教え方そのものよりも、練習を始めやすくして終わりをわかりやすくするサポートが役立ちます。ピアノ経験のない保護者でも、先生の宿題メモを確認するだけで十分できることがあります。
何番を何回弾くのか宿題を具体化する
子どもが「何をやればいいかわからない」と感じると、ピアノに向かうまでの時間が長くなります。レッスン後に、バイエルの番号、ハノンの番号、回数、片手か両手か、注意されたポイントを簡単に整理しておくと始めやすくなります。
ただし、先生から「できるまで」と言われていないのに、家庭で回数を増やしすぎる必要はありません。短い練習でも、毎回同じ注意点を意識できれば内容は濃くなります。
できたかどうかを速さだけで判断しない
保護者が聞いてわかりやすいのは「止まらず弾けた」「速く弾けた」という変化ですが、ハノンでは音のそろい方や力みの少なさも大切です。バイエルでも、正しい音を押すだけでなく、拍子やフレーズを意識する課題があります。
家庭で細かくフォームを直そうとすると、先生の指導と違って子どもが迷うことがあります。「先生はどこを気をつけてと言っていた?」と本人に確認し、そのポイントに戻す程度でも十分です。
併用の目的がわからなければ先生に聞く
「なぜ2冊やるのですか」と質問するのは、指導方針を否定することではありません。ハノンを加えた理由が「指の独立を整えたい」「音階の準備をしたい」「ウォーミングアップにしたい」など具体的にわかれば、家庭練習でも何を意識すべきか見えやすくなります。
大人の初心者がバイエルとハノンを併用する場合

大人も基本的な考え方は子どもと同じですが、目的と使える時間によって配分を変えやすい点が違います。仕事や家事の合間に練習する場合、2冊を毎回きっちり進めようとすると続きにくくなることがあります。
未経験なら最初はバイエル中心でもよい
楽譜をほとんど読めない状態なら、まずバイエルなどの入門教材で鍵盤と譜読みの基本を身につけるほうが進めやすいでしょう。ハノンの譜面自体は規則的ですが、姿勢や手の使い方がわからない段階で反復すると、力んだ弾き方を繰り返す可能性があります。
数週間から数か月練習し、簡単な両手奏に慣れてきた時点で、1日3〜5分程度のハノンを加える方法なら負担を抑えやすくなります。
経験者の再開ならハノンを先に短く入れやすい
子どもの頃に習っていて再開する方は、譜読みの知識が残っていても、指が思うように動かないことがあります。その場合は、やさしいハノンをゆっくり弾き、手の感覚を取り戻してからバイエル後半やブルグミュラーなどへ進む使い方もできます。
ただし、昔弾けたテンポを最初から再現しようとすると負担になりやすいため、再開直後は特に速さを控えます。昔の進度ではなく、現在無理なく弾ける状態を基準にすることが大切です。
目的がポップス中心なら教材の比重を変えてよい
クラシックの基礎を体系的に身につけたい人にはバイエルとハノンの併用がわかりやすい一方、弾き語りや好きなポップスを楽しむことが主目的なら、限られた練習時間の大半を教則本に使う必要はありません。
譜読みや指の動きで困っている部分だけ基礎教材を使い、残りは実際に弾きたい曲へ回す方法もあります。教材は目的に合わせるものであり、「ハノンを終えるまで好きな曲は禁止」と考える必要はありません。
バイエルとハノンの併用でよくある疑問

併用を始めると、「何番までやるのか」「毎日必要か」など細かな疑問も出てきます。ここでは判断に迷いやすいポイントをまとめます。
ハノンは何番までやればいい?
全員が同じ時期に同じ番号まで進める必要はありません。ハノンは60の練習から構成され、後半には音階やアルペジオなど、初級のバイエル学習者には難しい内容も含まれます。
バイエルと併用する段階では、先生が選んだ初歩的な課題だけでも十分です。番号を進めることより、現在の曲で必要な指の動きにつながっているかを基準にします。
ハノンは毎日やらないと意味がない?
短時間でも継続すると動きを確認しやすい教材ですが、毎日できなければ意味がないわけではありません。練習できる日が限られるなら、バイエルやレッスン曲を優先しつつ、数分のハノンを組み込むだけでも使い方として成立します。
大切なのは、1回に長時間まとめて弾くことより、何を意識して取り組むかです。週の練習計画について先生から指示がある場合は、その内容を優先してください。
バイエルを終えてからハノンを始めるのは遅い?
遅くありません。全音版ではバイエル後半頃からの併用が示されていますが、あくまで教材利用の目安です。バイエル修了後、ブルグミュラーなどへ進む時期からハノンを使い始めるケースも考えられます。
すでにバイエルが終わっているなら、今の曲で困っている技術に合わせて始めればよく、「もっと早く始めるべきだった」と考える必要はありません。
バイエルとハノンだけで十分?
初級の基礎を学ぶ組み合わせとしては成り立ちますが、音楽を楽しみながら表現力やレパートリーを増やすには、好きな曲や小品集などを加える方法があります。バイエルもハノンも練習目的が比較的はっきりした教材なので、発表会曲や気に入った曲を弾く時間があると学習に変化が出ます。
教本の冊数を増やすこと自体が上達につながるわけではありません。練習時間が短い場合は、主教材、テクニック教材、楽しみの曲の3つを全部毎日やるのではなく、曜日で分ける方法もあります。
まとめ:バイエルとハノンは目的を分けて無理なく併用しよう
バイエルとハノンは、目的が違うため併用しやすい教材です。バイエルは読譜、リズム、両手奏などピアノの基礎を総合的に学び、ハノンは指の独立や均等な動きなど、テクニックを集中的に補います。
始める時期に迷うなら、バイエル後半頃からハノンを短時間加える方法がひとつの目安です。ただし、導入期から必ず2冊必要という意味ではなく、先生が別教材を使っている場合や、練習負担が大きい場合はハノンを使わない選択もあります。
家庭では、ハノンを長時間こなすより、指定された課題を数分集中して練習し、その後バイエルや好きな曲へ進むほうが続けやすいでしょう。教材の進度よりも、今の子どもや学習者に必要な力と練習量が合っているかを基準にしてください。



